トップページへ

「ER」1st season 第1話 その2 「吐血からCPA」


■6分48秒―7分17秒
Dr Ross が診ている患者さん

頭部と頚部を診察していると、いきなり血を吐きました。
血をはく状態で最初に鑑別しなければならないのは
吐血 hematemesis か喀血 hemoptysis か、
すなわち出血が消化管からか気管・肺からかです。

喀血は鮮紅色で吐血は暗赤色のことが多く、
この場合はかなり赤い色のようです。そこでDr Rossは
I want you to tell me if it hurts you when you breathe.
と質問しています。喀血を疑ったのですね。

しかし看護師は
I don’t get a BP.   BP: Blood Pressure
血圧が測れない、と言っています。事態は切迫しています。

出血源がどこか検索するよりも治療が優先です。
このような時は太い輸液路を2箇所確保することが必要です。
Start two large bore IVs.  IV: intravenous
Saline wide open.
生理食塩液を全開です。

Type and cross: 血液型 Blood Type の略、と cross match の略
クロスマッチの結果が出るのに数十分かかるので、
4 units of O-negative, start.
とりあえず何型にでも輸血できるO型Rh(-)を4単位入れるよう
指示 order しています。

このO-negative の指示は、ERの出血の場面でいつも出てくるorder です。
日本ではまずおこないません。日本ではRh(-)の頻度は0.5%です。
そしてだいたいA型40%、O型30%、B型20%、AB型10%くらいですから、
O-negative は0.15%くらいしかないBlood Type だからです。
日本では緊急時にO型Rh(+)を入れることがあります。
Rh(-)の頻度は人種差があるようです。
アメリカではたくさん手にはいるのでしょうか。

次にNG tube を入れるようorderしました。
NG tube: naso-gastric tube。 naso; 鼻の gastric: 胃の
経鼻胃管といって鼻から胃へ入れるチューブです。
NG tube からどんどん血が出てくるようなら、出血源は消化管だとわかります。

■8分15秒―8分54秒
Dr BentonがこのPatientの治療を引き継いでいます。
消化管出血 Gastrointestinal Bleeding で最も多いのは
胃潰瘍 Gastric Ulcer からの出血なので、心窩部の診察をおこなっています。

Call O.R.  (Operation Roomに電話しろ)
Get a room  (一部屋確保しろ)
最近はいきなり手術:開腹して止血するより、内視鏡的止血術が多いです。

What is her crit?  ヘマトクリット Hematocrit (Ht)の略
血液中の血球成分(主に赤血球)の割合を表します。単位は%
普通は40-50%。低いと貧血です。
ただし、急激な出血ではこのHtはすぐには減少しません。

と言っているうちに心肺停止 cardiopulmonary arrest (CPA) になりました。
一般の人は「心停止」と聞くと心電図波形が平らなことをimageすると
思いますが、心停止とは有効な心拍出量がない状態です。
医学的には
 ①心室細動 Vf: ventricular fibrillation
 ②無脈性心室頻拍 pulseless VT: ventricular tachycardia
 ③心静止 Asystole (systole: 収縮 の否定形)
          略してAsys(エーシス)と呼ぶことも
          (血圧の上は収縮期圧systolic pressure)
          あるいはstandstill と呼ぶこともあります。
 ④無脈性電気活動 PEA: pulseless electrical activity
の4種類があります。

このうち除細動defibrillation が有効なのはVf とVT です。
これを自動的に判断して一般のひとでも使えるようにしたのが
AED: automated external defibrillater 自動体外式除細動器です。
ずいぶん普及してきましたので駅などで見たことがあるでしょう。

この場面の心電図波形はVf ですからDr Bentonはすぐに除細動にかかりました。
電気ショックをかけるときに、“Clear!”と声をかけています。
感電を防ぐために、皆が患者から離れていることを確認しているのです。
1st season 第2話 その3 参照)

Epi: Epinephrineの略 生物学ではアドレナリン Adrenaline (副腎Adrenal Grandから出るので)と呼ぶが、薬剤名でエピネフリンとも言います。
CPAの治療に使われます。

Lidocaine: リドカイン:抗不整脈薬および局所麻酔薬
AHA American Heart Association のGuideline で推奨されなくなり、
最近は蘇生術に用いられなくなってきています。

■9分17秒―9分58秒
Dr Bentonが胸骨圧迫(心マッサージ)Chest Compressionを続けています。
除細動は2分毎に波形を見ておこないます。ですから2分経過したことを確認して
2回目の除細動をおこなっています。

前のscene との間の2分間で気管挿管されているのが、画面でわかります。

心拍が再開しました。やったね。

■11分40秒―12分00秒
皆がちょっと休憩しながら、この患者さんのその後を話しています。
どうやら助かったようですね。
The lady who arrested.
a junctional rhythm: 接合部調律 房室結節で心拍が出ているようです。

このlady の名前はなんだったのでしょうね。
さて、ひるがえって考えると、Dr Rossはなぜ頭部と頚部を診察していたのか。
出血性ショック hemorrhagic shock の早期、pre-shock state プレショック状態の
ときにはたちくらみ、失神する faintness ことがまれではありません。
循環血液量が減少してきて、急に立ち上がると脳への血流が不足するからです。

きっと彼女が失神して倒れたのでその診察をしていたのだと思われます。
失神だと思っていると、実は出血性ショックだった、ということはときどき経験します。
診断のPitfallの一つです。



「ER」目次へ


このページの上部へ